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津家庭裁判所四日市支部 昭和53年(少)497号 決定 1978年8月30日

少年 M・Y(昭三六・一・二四生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

昭和五二年七月七日当裁判所のなした少年を中等少年院に送致する旨の決定はこれを取り消す。

理由

1  非行事実

司法警察員作成の送致書及び追送致書記載のとおりであるからこれをここに引用する。

2  適条

上記「送致書」及び「追送致書一」の各事実(別紙犯罪事実一、二)につき刑法二三五条

上記「追送致書二」の事実(別紙犯罪事実三)につき道路交通法六四条、一一八条一項一号

3  処遇選択の理由

少年は、中等少年院仮退院後日時を経ずして本件各非行を犯すに至つたものであり、その不遇な生育歴に鑑みると、施設内処遇の効果にも確かな展望を持ち難いところから、徹底した個別処遇に期待して補導委託による更生を図るべく、諸々の可能性を検討するも、調査官指摘の如く、少年の孤独感は深く、逃避機制も強いうえ、性格改善について内省に欠けるところがあるから、これを施設外において有効、適切に処遇することは著しく困難と言うべく、したがつて、再度少年院に収容することとする。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年法二七条二項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐藤嘉彦)

別紙

犯罪事実

少年は、

一 昭和五十三年七月二十六日午前二時三十分ごろ三重県桑名郡○○町○○○○×××番地A方車庫内に駐車中の同人所有の中古普通乗用自動車一台時価五十万円相当を窃取し、

二 昭和五十三年七月二十五日午後十一時三十分ごろより同月二十六日午前二時二十分ごろまでの間五回にわたり別紙窃盗被疑事実明細書(編略)のとおり三重県四日市市○○町×番×号B方外四か所において、同人ほか六名の所有にかかる現金二、五一一円ならびにオートバイ等物品二〇点(時価二七一、四五〇円相当)を窃取し、

三 公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五十三年七月二十六日午前三時二十分ごろ、名古屋市○○区×番×丁目××番×号付近道路において普通乗用自動車を運転し

たものである。

昭和五三年少第四九七号

処遇勧告書

少年 M・Y 決定少年院種別 特別

昭和三六年一月二四日生 決定年月日 昭和五三年八月三〇日

勧告事項 「カウンセリング、精神療法、グループワーク等を活用して性格の偏倚を矯正するとともに、保護者との精神交流を通じ、対人関係において精神的な結びつきを得さしめるよう、配慮されたい。」

理由 送致決定書及び昭和五三年八月二九日付の調査官意見書記載のとおり。

昭和五三年八月三〇日

津家庭裁判所四日市支部

裁判官 佐藤嘉彦

昭和五三年少第四九七号窃盗等保護事件

少年の家庭環境調整に関する件

少年 M・Y

昭和三六年一月二四日生

本籍 兵庫県○○郡○○町○○×××番地

帰省先 四日市市○○○○町××-××(父M・O方)

右少年は、別添決定謄本のとおり、昭和五三年八月三〇日当庁において特別少年院送致決定を受け、現在○○少年院収容中のものでありますが、少年の家庭環境の調整につき、左記のとおりの措置を行なわれるよう、少年法二四条二項、少年審判規則三九条により要請致します。

津保護観察所長殿

昭和五三年九月九日

津家庭裁判所四日市支部

裁判官 佐藤嘉彦

少年の保護者実父M・O、養母M・S子(住所は少年の帰省先に同じ)に対して、

1 可能な限り頻繁に少年との面会におもむいて、少年を励ますよう指導すること。

2 少年の心情の理解に努めると共に、父母の心情を少年に対して伝えるよう指導すること。

3 少年院退院後の受け入れ態勢を整えるよう指導すること。

参考 調査官の意見書

昭和53年少第497号 窃盗、道路交通法違反保護事件

意見書

津家庭裁判所四日市支部

裁判所 ○○○○ 殿

昭和53年8月29日

同庁

家庭裁判所調査官 ○○○○

少年 M・Y 昭和36年1月24日生 職業 なし(元調理師見習)

本籍 兵庫県赤穂郡○○町○○×××番地

住居 不定(帰住地 三重県四日市市○○○○町××番××号)

上記少年に関し調査の結果下記の通り意見を提出する

特別少年院送致決定(法第24条1項3号)

併せて

1 少年の保護者に対して、可能な限り頻繁に少年との面会に赴いて少年を励すと共に、少年の心情を理解できるように指導すること、を内容とする環境調整に関する措置を命じられること(法第24条2項)。

2 少年に対して徹底した個別処遇を実施することを内容とした処遇勧告をされること(規則第38条2項)。

3 先に昭和52年7月7日当庁においてなされた中等少年院送致決定を取り消されること(法第27条2項)。

を相当と思料する。

理由

1 本件の非行は、本年5月中等少年院を仮退院してドライヴインに調理師見習として住込み稼働した少年が、稼働先を無断外出して少年院で知りあつた友人宅に泊り込んで徒食していた間に、司法警察員の送致書および追送致書に記載の事実の通り、自動車盗、車上狙各2件、オートバイ盗、忍込各1件および無免許運転による道路交通法違反を為したものである。

2 本少年は、先回および先々回の少年院送致決定事件とほぼ同様のプロセスを経て本件の非行を為すに至つており、その問題点も自分の周囲に障壁をめぐらして他との精神的結び付きを持とうとせず、逃避機制が強いといつた強い性格の偏倚が認められ、その家庭は父が少年に対して拒否的で本件逮捕後は少年への面会通信は全くしておらず、審判にも出席しない旨をほのめかしている状態にあり、少年の家庭への帰属感は薄く家庭への帰住も望んでいないといつた先回審判時とほぼ同様のものが認められ、その非行性は新しく忍込の手口が加わり、特に必要としない物をも手当り次第に窃取するに至つているところから、やや昂進して来ていることが懸念されるものである。

3 本少年の保護については、既に2回にわたり少年院での矯正教育を受けており、先回の審判時に比しやや社会性が伸長し、保護者への攻撃的態度が柔らいで来ているところから補導委託をすることも考えられようが、少年に孤独感と逃避機制が強くかつ性格改善についての洞察を得るに至つていない状況にあるところから、例え有力な資源が得られたとしても、補導委託による更生は極めて困難なものと考えられる。

4 従つて再度少年院に収容する以外にその保護の方策はないものと考えられるが少年院での矯正教育をより効果あらしめるためには、カウンセリング、精神療法、グループワーク等を活用して性格の偏倚を矯正すると共に、保護者との精神的交流を通じて精神的結びつきを得さしめることが必要と考えられる。

よつて、この際はその非行前歴・予想される矯正教育の困難性・その他諸般の事情を考慮して特別少年院に送致すると共に、併せて標記内容の環境調整に関する措置と処遇勧告を特に付されることを相当と思料する。

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